遺言

 
 『遺言』とは自分の死後、その財産をどうするかを大切な人たちへ伝えるものです。

 近年、遺産相続をめぐる争いは、年々増加しており法務省によれば全国の家庭裁判所で取り扱った遺産分割調停事件の件数を見ると平成元年に7,047件であったものが、平成17年には1万130件(概数)と17年間で約30%増加しました。
また、公正証書遺言の作成件数も年々、増加傾向にあり平成元年に役4万1,000件であったものが、平成17年には訳6万9,000件と約40%増加しています。この数字は調停事件の件数のみであり、実際の遺産相続をめぐる争いの数は計り知れないものでしょう。
 
 その影響もあるのか近年、書店ではエンディングノートの種類も増え、元気なうちに遺言書を作成すると言う認識も日本に浸透してきました。欧米では、遺言書を書く事により大切に思っている人たちが無駄な争いを避け、より良い方向へ進めるよう提案すると認識されています。我が国において『遺言』と言う言葉は、悲しいイメージを連想させるのかもしれません。しかし、『遺言』は、人生の最後に自分の意思を伝える表現方法の一つです。そしてそこに書かれた内容は残された方への生前の感謝と愛情がこもったメッセージでもあるのです。
 
 当事務所では、その大切なメッセージをきちんと伝える為、お客様一人ひとりに合った遺言書をご提案、サポートいたします。


遺言の種類

  •  遺言には、条件や遺言が残される状況によっていくつかの種類があります。ここでは平常時に一般的な形で残す
     「普通方式」につてご説明いたします。

  • 自筆証書遺言(民法第968条)
      遺言者(被相続人)が自分自身の手で書いた遺言書です。
     費用をかけずに最も簡単にできる遺言書です。『自筆』とあるだけに必ず本人の手書きでなければいけません。つまり、パソコ ンやタイ プライター などで作成したものは無効となります。

    • メリット  遺言者だけで作成でき、費用がかからない。
    • デメリット 民法が要求する方式や相続に関する基礎知識を理解したうえで書かなければ内容不備により無効になる恐れがある。遺言者本人が保管するため破損・紛失の恐れがある。検認の必要がある。

  • 公正証書遺言(民法第969条)
      遺言者が遺言内容を口述し、公証人がそれを書き取り、法律にのっとった遺言書を作成します。立会と承認のために2人以上 の証人が必要です。 原則として遺言者と証人が公証役場に出向きます。遺言書は2部作成され、原本は公証役場に保管され 写しである正本が 遺言者に渡されます。

    • メリット 法律に精通した公証人が遺言を仕上げるので、内容不備で無効になることがない。遺言書が公証役場で保管されるので破損・紛失の恐れがなく安全である。検認の必要がない。
    • デメリット 公証人などに支払う費用が発生する。証人が2人以上必要である。遺言の内容が他人に知られる。
  • 秘密証書遺言(民法第970条)
      遺言書(自筆、代筆、パソコンでの作成できる)に、遺言者が自筆で署名、押印しそれを封筒に入れ封印します。2人以上の証人の立会のもとで 公証人が封筒入りの遺言書を確認する。封紙に年月日その他を書き、証人らとともに署名・押印後、封筒に張り付けて遺言者に渡す。保管は遺言者本人です。

    • メリット  自筆でなくてもよい。遺言書の存在が法的に明らかになり、遺言内容の秘密が守れる。
    • デメリット 遺言内容に不備があっても公正証書遺言のように作成過程で訂正されることがない為、開封時に不備が明らかになり無効になる恐れがある。遺言者本人が保管するため破損・紛失の恐れがある。検認の必要がある
  • 検認とは
     遺言書(公正証書による遺言を除く)の保管者又はこれを発見した相続人は,遺言者の死亡を知った後,遅滞なく遺言書を家庭裁判所(遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所)に提出し,その「検認」を請求しなければなりません。また封印のある遺言書は,家庭裁判所で相続人等の立会いの上開封しなければならないことになっています。
     検認とは,相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに,遺言書の形状,加除訂正の状態,日付,署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。遺言の有効・無効を判断する手続ではありません。

遺言書の作成をお勧めするケース

  • 妻に全財産を残したい場合

    【例】北村一郎と北村花子は夫婦で、子どもがいない。北村一郎の両親は亡くなっており、北村二郎という弟がいる。

    この場合、北村一郎が亡くなると遺言書がなければ彼の財産は妻3/4、弟の二郎1/4と法定相続分の割合で相続することになり、妻に全財産を渡すことができない。

    【対処例】夫 北村一郎が『妻 北村花子に全財産を相続させる』という内容の遺言書を作成すると、兄弟姉妹には遺留分がないため妻へ全財産を渡すことができます。

  • 妻に多くの財産を残したい場合

    【例】北村一郎と北村花子は夫婦で、子どもがいない。北村太郎の両親は生存している。(他に相続人はいない)

    この場合、北村一郎がなくなると遺言書がなければ彼の財産は妻2/3、両親 合わせて1/3となる。

    【対処例】夫 北村一郎が『妻 北村花子に全財産を相続させる』という内容の遺言書を作成すると、両親が遺留分の請求をしなければ妻 北村花子へ全財産を渡す事ができます。しかし、両親が遺留分の請求をすると両親合わせて相続財産の1/6を相続することになる。遺言書があれば法定相続分の割合よりも少なくすることが可能になります。

  • 戸籍上婚姻関係にない大切なパートナーへ財産を残す場合

    【例】北村一郎は長年一緒に暮らしたパートナーAさんがいます。北村一郎の両親は生存している。(他に相続人はいない)

    この場合、同居人や内縁関係の人には法定相続分がないので、遺言書がなければパートナーAさんは北村一郎さんの財産を相続することは出来ず北村一郎さんの両親が相続することになります。

    【対処例】北村一郎が『パートナーAさんに全財産を遺贈する』という遺言書を作成した場合、法定相続人との間で相続争いが起こる可能性が髙いので、相続人でない人に財産を分ける場合は『パートナーAさんに金○○円を遺贈する』など具体的な内容の方が確実にAさんに財産の一部を残す事ができます。

  • 遺留分とは

     遺留分とは、本来、被相続人が生前贈与や遺言などにより自己の財産を誰にどのように分けようと自由であるところ、民法は遺族の生活の安定性や相続人の公平性を期するため兄弟姉妹以外の相続人に対し、一定の割合で相続の取り分を認めるという権利である。(民法第1028条)
     生前贈与や遺言により遺留分を侵害された相続人は、不足分を保全するのに必要な限度で相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間、遺留分減殺請求をすることができる。(民法第1031条、第1042条)